近年、太陽電池アレイの高電圧化、大容量化が進んでいる。そのため、大型化が必要になった太陽電池アレイに宇宙ゴミ(スペースデブリ)が衝突する可能性が示唆されるようになった。スペースデブリが太陽電池アレイに衝突すると、放電と呼ばれる現象が発生する可能性がある。そこで、太陽電池アレイを模擬したクーポンに二段式軽ガス銃を用いてスペースデブリを模擬した飛翔体を衝突させ放電の有無を地上試験で検証した。
太陽発電衛星のような大電力システムを効率的に運用するには、電力レベルの平方根に比例した電圧で発電・運用する必要がある。1MWクラスの実証機を想定した時に必要な発送電電圧は400Vであり、高電圧発電技術の構築がキーテクノロジーの一つとなる。しかし、宇宙環境で太陽電池を使って高電圧発電を行うと、宇宙プラズマとの相互干渉作用に起因した帯電・放電現象によって電力の安定供給が脅かされる。当研究室ではこれまでに様々な高電圧太陽電池用のアレイデザインを提唱し、それらの放電抑制効果を検証してきた。本研究ではこれらのアレイデザインの放電抑制効果について報告し、これらのデザインがデブリや熱サイクルなどの実際の軌道上の環境に対してどの程度の耐性があるのかを実験的に検証したのでこれらの結果について報告する。
現在の衛星は太陽電池アレイでの発電電圧が50~100V程度であるが、将来の衛星の大型化・大電力化に伴い、送電効率、重量の面から高電圧での発電が必要である。しかし、宇宙プラズマの影響で衛星が帯電し放電することにより不具合が発生する可能性があり、特に、帯電によりアレイ上のセルとカバーガラスとの間で逆電位勾配が形成されると持続放電が発生し、衛星に致命的な故障をもたらすことが憂慮されている。筆者らは、負バイアスしたアレイサンプルに宇宙環境を模擬した電子ビームを照射することにより、サンプル上に逆電位勾配を形成し放電現象を検討している。太陽電池セル間の距離(列間距離)を大きくすると持続放電抑制に効果があることが報告されており、ここでは列間距離0.8mmおよび1mmの場合の放電現象を検討したので報告する。
発送電一体型太陽発電衛星パネルは厚みのある大型宇宙構造物であり、その展開、形状・振動制御に用いるアクチュエータには、展開中の姿勢変動への影響が少なく、展開ラッチ衝撃が小さく、構造精度が高く、形状制御が可能で、振動減衰に優れたものが必要である。このような要求を満たすスマートアクチュエータとして形状記憶合金の応用を検討している。本論文では原理検証のための形状記憶合金を用いた小型の二次元展開パネルの試作試験結果に関して報告する。
宇宙太陽発電システム(SSPS)におけるマイクロ波送電システムには、直径数kmに及ぶ超大型フェイズドアレイを用いた高速・高精度なビーム制御、送電システム全体として高効率、軽量であることが求められる.本研究では、その効率向上・小型軽量化を目指してアクティブ集積アンテナ(AIA)を応用したマイクロ波送電システムの検討を行っている.本システムは給電部を導波管スロットとし、AIAで位相制御、増幅を行うシステムであり、能動素子と平面アンテナが同一基板に構成されるため伝搬損の軽減・小型軽量化が可能で、薄型のフェイズドアレイを実現することができる.本報告では導波管スロット給電部および増幅部の検討結果について示す.
SPSでは、マイクロ波の送電方向を決定するのに、地上のレクテナサイトから発電衛星に到来するパイロット信号を用いる。SPSでの到来方向検出は高精度であることが不可欠だが、衛星に搭載する到来方向検出用のパイロット信号受信機の性能には、製造段階での個体差、過酷な宇宙環境での使用により生まれる受信機の特性変化といった機器ごとの差異が生じる。その差異はランダムな誤差として受信信号の処理用データに含まれ、時に系統誤差となり検出結果を狂わせる。その差異のために精度のよい方向検出ができなくなることを避けるため、本研究では、そういった受信機の差異に対し補正を行い正しく方向検出を行う新たな手法の開発結果について述べる。
地上から送信されたマイクロ波を動力源とする成層圏無線中継用飛行機、SHARP(Stationary High Altitude Relay Platform)では、約21km上空を飛行するレクテナを搭載した無燃料の飛行機に対し、地上で受信した情報を元に、アレイのビームを独特の方法で制御していた。その際に必要であった高度計を不要とするとともに、高速化された方法を提案する。また、太陽発電衛星(SPS)への応用を視野に入れた静止衛星上のアレイに関しても、評価を行うとともに、SPS送電ユニット間の位相同期への応用も可能であることを示す。
太陽発電衛星用受電アンテナ(レクテナ)素子として、円形マイクロストリップパッチアンテナ(CMSA)の利用が提案されている。CMSAは高次の共振周波数が基本周波数の整数倍にならないという特性を有しており、整流用ダイオードで発生する高調波の再放射を効果的に抑圧することができる。これまでに筆者らは、周波数2.45GHzに対応したレクテナ用CMSAの検討を行い、高調波の再放射をさらに減少させ、高効率なRF-DC変換を実現することを目的とした、スリット入りCMSAを提案している、本報告では、送電周波数を5.8GHzとした機能実証実験モデル(SSPS)に対応したスリット入りCMSAについて検討する、時間領域の解析手法であるFDTD法を用いた電磁界解析を行い、アンテナ素子の諸特性を明らかにする、
はやぶさ搭載されたマイクロ波放電式イオンエンジンは地球スイングバイを含む深宇宙機動を実施中である。1年以上に及ぶこれまでの宇宙運用経験から今後求められるであろう電気推進の方向性に関し考察する。
マグネトロンの熱制御方法を検討するにために、商用出力0.8kW級2.45GHzマグネトロンを3台用いて500時間のマイクロ波発信並列試験を京都大学METLAB電波暗室で行った。3台の入力電流は350mA一定とし、1台のマグネトロンは水冷、カソードヒータOFF、他の2台は風冷でカソードヒータをそれぞれOFFとONとして試験を行った。試験の結果、効率の変化が3つの要因があることが示された。また冷却方法によってマイクロ波の波長分布に違いが見られたことなどを報告する。
本研究では、宇宙太陽発電システム(以下SSPS)の意義を検討するにあたり、地上太陽発電システム(以下PVPSG)との比較検討を行った。まず、両電源の電源特性を定性的に比較した後、検討の焦点を安定電力供給と設置面積の2つに絞り、PVPSGの発電原価を試算した。試算に際し、PVPSGに安定的な電力供給を行わせるため蓄電設備を併設したケースも想定し、日本の主要都市別の評価を行った。その結果、蓄電設備を併設した場合は、PVPSGの発電原価は50円/kWh弱まで上昇するが、蓄電を併設しないケースでは、将来の技術開発次第では、SSPSとPVPSGがほぼ同単価となる可能性があることがわかった。
SPSからのマイクロ波と生態系との影響について屋外での照射実験を進めている。その結果、ある環境の下で植物の成長促進が観察された。この成長は主に温度の作用によるものであると推察しているが屋外の施設では気象条件などのパラメーターが多すぎて解明することが困難である。このため環境状態を一定にした屋内施設を設置して成長にメカニズムについての解明を試みている。設置初期の予備実験では照度不足、電力分布の偏り、シールド効果、循環水などの問題が生じたが改良により、生育実験ができる環境が整った。この屋内実験施設の改良点と得られた植物の成長結果について報告する。
20世紀にグレーザーが提唱した宇宙太陽発電は具体化しないまま、研究は21世紀に持ち越された。現実の社会はエネルギーと環境問題で大きな転機にさしかっている。不安定な世界情勢に目を奪われているが、統計によると世界の原油生産が最近、減少に転じた。周知の通りわが国のエネルギーと資源の自給率はゼロに近く、世界的なエネルギー争奪が本格化すれば日本は特別苦しい立場に置かれるであろう。 昔、石油等のエネルギーコストが高くなれば、宇宙太陽発電が出番であろうと研究者は予想したが、それが現実になってきた時に作成したのがロードマップという呑気な研究指針であったから、政府も国民も期待が持てないのは当然である。筆者はそのようなビジョンは当事者の無力感を反映しており、その背後には宇宙太陽発電に対する世間の強い不信感があるためと考える。 この不信感は先ず「実現性」そして「経済性」「信頼性」等と信じて研究してきた研究者には頭が下がるが、「宇宙の太陽エネルギーは『経済的に取りだせる位置にない』ので資源ではない」という指摘(石井吉徳)から不信感の奥深さを感じた。これは研究者が幾ら努力をしても解き得ない。根源は日本の宇宙開発の実績にある。わが国の宇宙開発は技術開発の性格が強く、すでに衛星技術は通信技術として民間が引き継いだ。ただ、ロケットは有人飛行の計画の門を閉ざされて、輸送技術への発展が出来ないでいる。このさい、宇宙エネルギー開発を国の宇宙開発計画の中心的な課題とし、実施機関の輸送技術や資源とエネルギー技術の開発をこれに沿って行なうべきである。
宇宙太陽発電所SPSの実現に不可欠な実証実験衛星の宇宙―地上マイクロ波送電実験のためにはmW級以下のマイクロ波入力で高効率動作するレクテナの開発が必須である。従来のレクテナは将来の実用SPSを見据え、100mW以上のマイクロ波入力で高効率動作するものであり、マイクロ波送電実験で想定されるmW級入力時には20%以下の効率しか実現できていなかった。 本研究ではレクテナ整流回路パラメータの再検討を行い、これまでと同じ構成でありながらパラメータ最適化の結果、1mWマイクロ波入力で50%以上の高効率レクテナを実現した。本技術を発展させ、ウェアラブルレクテナの開発やユビキタス電源への応用へと繋げることも可能となる。
宇宙太陽発電所SPSにおいて、マイクロ波で送電された電力を直流に変換するレクテナの高効率化が重要である。ここで、我々は、レクテナ整流回路を実現する基板に注目した。過去、当研究グループではレクテナのRF-DC変換効率と基板パラメータの関係について実験的な検討がなされているが、これらの検討では一部の基板パラメータについての実験的な検討しかされておらず、基板パラメータ依存性の解析は不十分であった。本研究では、この基板パラメータ依存性についてシミュレーションを用いた、より詳細な解析を行うとともに、経済性・回路小型化などの課題を解決しつつ高効率が得られるレクテナの実現に最適な基板の検討を行うことを目的とする。
宇宙太陽発電所SPSにおいて、マイクロ波で送電された電力を直流に変換するレクテナの高効率化が重要である。ここで、我々は、レクテナ整流回路を実現する基板に注目した。過去、当研究グループではレクテナのRF-DC変換効率と基板パラメータの関係について実験的な検討がなされているが、これらの検討では一部の基板パラメータについての実験的な検討しかされておらず、基板パラメータ依存性の解析は不十分であった。本研究では、この基板パラメータ依存性についてシミュレーションを用いた、より詳細な解析を行うとともに、経済性・回路小型化などの課題を解決しつつ高効率が得られるレクテナの実現に最適な基板の検討を行うことを目的とする。
テザー型SPSは発送電一体型のパネルをテザーで吊って重力勾配力により下面の送電面を常時地上に指向させるタイプのSPSである。この方式のSPSは電力効率は必ずしも高くないが、構造及び制御が単純で技術的な実現可能性が高く低コストが見込まれるという特長を持っている。この方式のSPSの軌道上実証実験のための発送電一体型パネルの検討を行った。発送電一体型パネルは電気的にも機械的にも完全に等価な発送電一体型モジュール(80x80x10cm)で構成される。本講演では、発送電一体型モジュールの機械的な構成、電気的な構成、マイクロ波制御の方式、熱的な検討結果について述べる。マイクロ波回路の構成はマグネトロンを電力増幅に使用する場合と半導体アンプを電力増幅に使用する場合の2ケースについて検討した。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、委員会/ワーキンググループ形式によりマイクロ波方式宇宙エネルギー利用システム(SSPS:Space Solar Power Systems)およびレーザー方式SSPSに関するシステム総合研究を実施しており、システムコンセプト、技術課題、実証シナリオ、経済性等の検討を行っている。また、高電力送電技術、レーザー発振技術、熱制御技術、大型構造物制御技術など重要な要素技術のうち、地上で実証可能であるものに対して要素試作試験等を継続して実施している。本講演では、JAXAにおけるSSPS研究の現状とそれをとりまく状況および今後の展望等について説明する。
USEFでは経済産業省および同省関連団体からの委託を受けて、将来の電力代替エネルギー源としての宇宙太陽発電システム(SSPS)の実用化技術に関する調査研究を行ってきた。これら調査研究プロジェクトの概要と活動の状況について報告する。平成12年度はSSPS全般に関する調査を実施し、平成13、14年度は実用化技術調査として経済、環境及び技術面からSSPSの実用化に向けての検討を行うとともに、要素技術についての試作の実施、実証実験システム及び実用段階でのSSPSの具体案についての開発計画策定等を行った。平成15年度は実用SSPSの構造システムについて検討を行うと共に、発送電部(発送電一体型パネル)に関する要素試作を行った。現在(平成16年度)は、主に環境・安全等に関するアセスメントについて検討を行うと共に発送電部に関する要素試作を更に進めるなど、継続研究中である。