M-SSPSでは太陽電池で発電した電力を発電部から送電部まで伝送するが、電力ケーブルによる損失を低減するために10kVの高電圧を使用する必要がある。高電圧での発送電を行うにあたり、電力ケーブルには宇宙環境でも耐えられる絶縁性が必要とされる。導体上にケーブルを設置し芯線部に高電圧を印加すると、導体部とケーブル被覆の接点近くで放電が発生し、放出された電子によって被覆が帯電することが分かった。また、ケーブル芯線への高電圧印加及び接地の繰り返し時に発生する放電の被覆への影響を調べるための繰り返し放電耐久試験システムについて報告する。
太陽発電衛星や外惑星探査用ソーラー電力セイルには、従来の宇宙機と比べ一桁以上軽量な大電力光発電システムが要求されている。ソーラー電力セイルでは、光子を推進力に変換するセイル膜面上に薄膜太陽電池を用いた大規模な発電システムを構成する技術開発研究が行われており、来年度打ち上げが予定されているIKAROSにおいてその技術実証が計画されている。本報告では、技術実証用に開発を行った薄膜太陽発電システムの紹介と将来の薄膜発電システムの宇宙機への応用に関して述べる。
ビームエネルギー推進は,レーザーを用いて外部から推進エネルギーを得るため,化学ロケットに比べ高いペイロード比を実現できる.また,一度建設したビーム発信源を非常に多数の回数にわたって使用することが可能であり,打ち上げシステムへ適用することで大幅な打ち上げコストの低減を期待することができる.このため,ビームエネルギー推進はSPSのような大規模な宇宙構造物の建設において,低コスト化が実現可能で,有利な輸送手段であると考えられる。
太陽発電衛星(SPS)では、一方の面で発電し、もう一方の面でマイクロ波による送電を行う発送電一体型システムの研究が行われている。衛星軌道上に折り畳まれた展開型パネルを輸送し、輸送後展開を行いSPSの建設を行う。また、マイクロ波送電面は、送電効率を維持するために、熱サイクル等により発生する送電アンテナ面の歪みを緩和し、平面度を維持する必要がある。大量に輸送される展開型パネルのアクチュエータや展開及び平面度維持動作には極めて高い信頼性と軽量化が要求される。我々は、その要素技術研究として、アクチュエータに形状記憶合金を用いた展開及び平面度維持システムの研究を行っており、その基礎実験結果を報告する。
大型構造物の組立技術は、技術宇宙太陽光利用システム(SSPS)を実現する上で、クリティカルな技術の一つである。将来の商用システムにおいては、軌道上にkmサイズの反射鏡、太陽電池、送電アンテナを設置することを想定している。現段階では、100mサイズの構造物の軌道上での実現性について検討を進めている。具体的な作業としては100mサイズの発送電一体型パネル、反射鏡に適した構造様式のトレードオフ、候補となる構造様式の試作、試験等を行っている状況である。本講演では、現在、行っている検討状況、試作試験の結果、検討を進める上での課題について、その概要を報告する。
セルロースナノファイバーはすべての植物細胞の基本骨格物質で、軽量(密度1.5g/cm3)でアラミド繊維と同等の強度(3GPa)、弾性率(140GPa)を有する、幅4-20nmのスーパーナノファイバーである。線熱膨張係数が石英ガラス並 に低く、また、-200℃~+200℃の範囲において弾性率がほとんど変化しない。部材の軽量化は移動体の燃費向上において不可欠であり、それは特に宇宙構造体において重要である。本発表では、セルロースナノファイバーで作る“折り畳められる透明・低熱膨張シート材料”を紹介するとともに、軽量化を目指した同材料のSPS集光鏡パネル基材等への利用について、宇宙線(ガンマ線)に対する耐性等を踏まえ、考えてみたい。
能動型位相配列アンテナ(APAA)は、高度なビーム制御機能を有し能動回路を分散配置できるという利点を有する。そのため、移動体通信や衛星通信への適用を目指して、プロジェクトにより研究開発が進められている。本論文ではまず、プロジェクトの概要と開発するAPAAの内容について説明する。上記APAAの利点は、太陽発電衛星 (SPS)の電力送出用アンテナとしても魅力である。本論文後半では、このAPAAをSPSに応用する可能性について、検討する。アンテナ放射特性や能動回路との接続、熱・機械特性について、周波数と電力、規模などのパラメータを基に外挿して考える。
2009年3月5日および10日に京都大学にて「飛行船からのマイクロ波による電力と情報の同時伝送実験」を実施した。飛行船には蓄電池、駆動電源、マグネトロン、導波管系、ラジアルラインスロットアンテナから構成される2素子の送電システム、ならびにレトロディレクテイブ系、計測テレメータ操作系、電気系・機械系計装系で構成され、42.9kgの搭載重量で220Wのマイクロ波出力が得られた。したがって飛行船実験での質量/電力は19.5g/Wとなり、これまでのマイクロ波送電実験の中で最も軽量なシステムが構築された。本発表では、飛行船実験の概要説明とともに、飛行船実験を通じたマグネトロン送電システムの重量に関する考察を述べる。
シロイヌナズナをモデル植物として、マイクロ波の世代交代に与える影響を調べている。マイクロ波強度は、中心付近で 22mW/cm2、外周部で,約 1mW/cm2 であり、中心付近では、予想される SSPS のレクテナ付近と同等と設定した。 現在までに、第一世代の播種から採種まで終わり、第二世代の育成を行っている。第二世代は、一度発芽に失敗したため、現在、発芽条件を変更してやり直しを行っている。第一世代の観察結果では、照射中心領域と外周部では大きな 変化はなく、マイクロ波の影響は認められていない。第二世代については、やり直しの実験を開始したところで、これからとなる。また、シロイヌナズナはゲノムの解読が完成しているので、DNA 解析も予定している。
CO2削減に有効であるSPSは実用化に向けた研究が進んでいるが生態系についての調査は十分とは言えない。植物に関しては実用レベルの電力密度以上で成長促進や枯れ現象が今までの研究で確認されている。成長促進のメカニズムを解明することは他の植物に対するマイクロ波の影響を調査する上からも重要と考えている。成長促進は気温,土壌の温度,植物の密度など育成環境が要因と考えられる。ここでは育成容器内の種の量を変えた照射実験を行った。その結果、多い種の育成容器内温度は植物の成長が進むにつれて高くなる傾向が示され,特にマイクロ波照射領域中心部では10℃以上の温度上昇が計測された。この温度上昇も成長促進の一つの要因と考えている。
将来のSPSのための周波数確保を目指して、国際電気通信連合・無線通信部門(ITU-R)SG1 WP1Aの無線電力伝送に関する研究課題に対する寄与をいう形で活動を行っている。今年は2月と9月に開催され、寄与文書をJAXAとして提出し、議長報告に掲載された。また、9月にはSPS2009がカナダで開催され、ここでも活動を報告した。これらの現状ならびに将来の問題について述べる。
財団法人無人宇宙実験システム研究開発機構では経済産業省および同省関連団体からの委託を受けて宇宙太陽発電システム(SSPS)に関連する調査研究を行ってきた。これまでの活動の状況と、マイクロ波による無線送受電の地上実証を中心にすえた今後の展開について紹介する。
2008年5月宇宙基本法が成立し、2009年6月には宇宙基本計画が策定された。その中で、SSPSは、今後進めるべきプログラムの一つとなった。このため、宇宙基本法の成立及び宇宙基本計画の策定が、一般の人のSSPSに対する意識に影響を与えているかどうかを探るため、本調査を計画した。JAXAでは、2003年度から「SSPSに対する一般成人の意識調査を実施してきた。今回の調査は、2008年度に次いで第4回目の調査となる。 アンケート調査では、一般の人の宇宙基本法の成立及び宇宙基本計画の策定についての認知度は低く、これらの成立・策定が、SSPSの認知に大きくは影響してはいない。しかしながら、SSPSの開発に対する支持が多いことも再認識される結果となっている。
宇宙太陽発電システムを拡張し、未来への展開を想定した構想が「月太陽発電ルナリング」である。この構想は月から無限に近いクリーンエネルギーを全世界に均等に供給するというもので、化石燃料に主要なエネルギー資源を依存し、それを節約しながら使っている現在のパラダイムからの転換を図るものである。人類が消費する全エネルギーを月からの電力でまかなうことにより、水素社会が実現されるばかりでなく、廃棄物の再資源化や食糧・水の供給問題の解決なども期待される。本構想の実現に向け、清水建設が進めている宇宙太陽発電システムや月探査・月資源利用に関る技術研究開発も紹介する。
9月29日の記者会見で、前原国道交通省大臣は「日本も自ら有人打ち上げができる能力を開発していかなければならない」と述べた。この提案を実現するために、どのような有人ロケットを造る方がいいかと決めなければならない。主に二つの可能性は数年前から提案されている:使い捨てロケットに打ち上げられる有人カプセル及び弾道飛行専用旅客機。この決定について様々の観点はある。太陽発電衛星プロジェクトの観点から、打上費用をできるだけ安くするロケットの方は魅力的。別に、日本経済の数十年ぶり弱い現状を認識する必要もあるので、有人ロケットプロジェクトの費用と便益を分析して、評価しなければ行けない。従って、内需拡大や雇用の増加や継続的経済成長などに充分貢献しない有人ロケットプロジェクトは実現されない方がいいと判断されるだろう。
宇宙太陽光発電システムの実現にあたり、現在の打ち上げコストを100分の1以下にする必要があり、そのためには、何度も飛行可能な再使用型ロケットによる安価な宇宙アクセス手段の確保が必須となる。このアクセス手段の確保の実現には大きな需要が必要であり、その対象として、宇宙観光旅行は最も高い潜在的可能性を持っていると言われている。40年前にも人類を約10年間で月に送ることができた技術があれば、現在では、宇宙旅行が実現されていても当たり前である。しかし、現在でも宇宙旅行や安価な宇宙アクセス手段が実現できていないのはなぜか?実現に必要なものは何か?という観点で整理し、実現に向けての今後への提言を示す。