宇宙太陽発電とは?

 世界人口の急激な増加とともに世界のエネルギー消費量も増大し続けており,地下資源の枯渇,温室効果ガスによる地球温暖化等の地球規模の環境問題が,より深刻になりつつあります。人類が繁栄し続けていくためには,宇宙空間をより積極的に利用する必要があります。地球環境に配慮しつつ,地球上のエネルギー枯渇に対応していくためには,昼夜を問わず太陽エネルギーを享受することのできる宇宙空間に発電所(SPS)を造り上げ,再生可能エネルギーとして地上に温室効果ガスを排出しないクリーンなエネルギーを供給し続けることが必要です。とりわけ,我が国の国家安全保障上の観点からもエネルギー自給率の向上は喫緊の課題であり,このようなエネルギーシステム(宇宙太陽発電システム:Space Solar Power Systems, 略称SSPS)は必須といえます。

宇宙太陽発電システムと電力網の接続

宇宙の発電所

 宇宙太陽発電所(Solar Power Satellite, 略称SPS)とは、 将来の実用化を目指して研究開発が進められている新しい発電方式の一つです。 人工衛星の軌道上に広大な太陽電池を展開して、太陽により電気エネルギーを発電します。 従来の人工衛星と異なるのは、軌道上で発電されたエネルギーを地上に送電し、 既存の電力網と同様に都市等へ供給する、未来の発電所です。

宇宙太陽発電所の完成想像図
(左:発送電部一体パネル型 © USEF、右:太陽光反射鏡搭載型 © JAXA)

エネルギーを無線で伝送

 宇宙太陽発電の最大の特徴は、宇宙で発電したエネルギーを、無線で地上に送電する点です。 従来の発電所では、発電した電気エネルギーは電線を通じて都市へ送電されています。 しかし、静止軌道と地上とは3万6千キロメートルと非常に遠距離であるため、 衛星で得られた電気エネルギーをマイクロ波に変換して地上に向けて放射し、 地上の受信装置で交流に変換して、既存の電力網に合流させます。 また、マイクロ波の代わりに赤外線のレーザーを利用する方法も検討されています。


エネルギー伝送の想像図 © JAXA
(左:マイクロ波型、右:レーザー型)

安定した電力供給

 従来の地上での太陽光発電では、曇りや雨の日は発電量が低下し、夜には発電されません。 一方、宇宙太陽発電では、太陽電池を宇宙に浮かべるので、太陽光が遮られることはほとんどありません。 また、マイクロ波は太陽光よりも大気を透過しやすい性質を持っているため、天候に影響されず、 安定して電力を供給できるという特長があります。

人々に安全な発電システム

 衛星から送電されるマイクロ波は、居住区域から充分離れた海上や平原のアンテナ郡に集中して照射され、 直流(その後交流)の電気に変換されます。 このとき、照射領域でのマイクロ波の電力密度は充分低く、 また、マイクロ波のビームはアンテナから外れないように自動制御されるため、 安全にエネルギーを送電することができます。
 また、レーザーで送電する場合は、その波長がマイクロ波よりも非常に短いため、 ビームを狭い領域に集中させることができ、 より小さい受電設備で電気エネルギーを得ることができるという利点があります。

様々な技術領域の融合

 宇宙太陽発電は、構造、電磁波、高電圧、輸送など多岐に渡る分野の技術が 結集して初めて完成する複合システムです。現在、国内の様々な研究機関における各分野の専門家が、 要素技術の向上やシステム検討などについて研究を進めています。

開発された発電実験装置の例 © JAXA・京大
(上部:疑似太陽光源と発電・送電部、下部:受電部(レクテナ))


国の政策に含まれる宇宙太陽発電の研究

宇宙基本計画

平成28年4月1日 閣議決定
本文へのリンク(内閣府)

4.我が国の宇宙政策に関する具体的アプローチ
(2) 具体的取組
② 個別プロジェクトを支える産業基盤・科学技術基盤の強化策
ⅲ)将来の宇宙利用の拡大を見据えた取組

(本文より抜粋)
・エネルギー、気候変動、環境等の人類が直面する地球規模課題の解決の可能性を秘めた「宇宙太陽光発電」を始め、宇宙の潜在力を活用して地上の生活を豊かにし、活力ある未来の創造につながる取組や、太陽活動等の観測並びにそれに起因する宇宙環境変動が我が国の人工衛星等に及ぼす影響及びその対処方策等に関する研究を推進する。(総務省、文部科学省、経済産業省、環境省等)

エネルギー基本計画

平成30年7月3日閣議決定
本文へのリンク(経済産業省 資源エネルギー庁)

第4章 戦略的な技術開発の推進
(エネルギーの需給に関する施策を長期的、総合的かつ計画的に 推進するために重点的に研究開発するための施策を 講ずべきエネルギーに関する技術及び施策

2.取り組むべき技術課題

(本文より抜粋)
無線送受電技術により宇宙空間から地上 に電力を供給する宇宙太陽光発電システム(SSPS)の宇宙での実証に向けた基盤技術の開発などの将来の革新的なエネルギーに関する中長期的な技術開発については、これらのエネルギー供給源としての位置付けや経済合理性等を総合的かつ不断に評価しつつ、技術開発を含めて必要な取組を行う。

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)中長期計画

平成 30 年 4 月 1 日~平成 37 年 3 月 31 日
本文へのリンク(JAXA)

Ⅰ.宇宙航空政策の目標達成に向けた具体的取組に係る措置
2.宇宙政策の目標達成に向けた分野横断的な研究開発等の取組
2.2.新たな価値を実現する宇宙産業基盤・科学技術基盤の維持・強化(スペ ース・デブリ対策、宇宙太陽光発電含む)
 (2)宇宙産業及びプロジェクトを支える科学技術基盤の強化

(本文より抜粋)
中長期的に取り組む宇宙太陽光発電システムに係るエネルギー送受電技術及び液化天然ガス(LNG)推進技術については、宇宙開発の長期的な展望を踏まえつつ、要素技術実証による波及成果の創出に留意した研究開発を行う。